前回のブログ『子供の学習を「習慣化」させるために その2』では、「アンカリング」のお話をさせていただきました。少し復習をします。
前回までの復習:アンカリング
アンカリングとは、
「外的な五感からの刺激情報をきっかけに、特定の反応や行動、感情が引き出されるプロセスを作り出すこと」
です。
・夕食後に自分の部屋の机で勉強する
の場合、
「夕食後(時間アンカー)」+「自分の部屋の机(場所アンカー)」により、「勉強する」という行動を引き出す、というように、「船を固定する錨(いかり)」であるアンカーが「勉強する」という行動を「つなぎ止めている」ことをアンカリングといいました。
・(夕食後+自室の机) ~~~~~>(勉強を開始する)
しかし、子供は、他のことが気になったりして、なかなか次の行動「勉強」に移れないことが多く、「さあ勉強を始めるぞ」という強い刺激、きっかけとなる「独特なジェスチャー」を「身体的アンカー」として追加しました。野球のイチロー選手の「バットを垂直に構える」ルーティーンのようなものです。
「普段はあまり行わない動作」かつ「少し刺激のある」もの、かつ「手や指のちょっとした動きだけで完結する簡単なもの」(鼻をつまむなど)がアンカリングを発動させるのに有効で、
ことにより、集中状態を保ってアンカー行動を発動させる、という具体例を挙げました。
・(時間アンカー+場所アンカー+身体的アンカー) ~~~~~> (集中モードで勉強を開始)
「身体的アンカー」は、仲の良くない二人の「仲介役」になり、あいだを取り持つのです。
ここまでが前回の復習になります。
今回は、「それでもやはり、子供にとって習慣化や継続することって難しい」ことなので、「継続のためのちょっとした工夫や考え方」のお話をさせていただきます。
これまでのアンカリングの話を少し別の視点から考えてみます。
意識ではなく行動を変える
アンカリングのきっかけ作りとして、「耳を触る」「こぶしを握る」「鼻を触る」などの「身体的アンカー」を追加するお話をしました。これは、「今までとは違った独特な行動を追加」し「行動を変化」させ、さらにルーティーン化することにより、今までリンクされていなかった次の行動「勉強」にリンクを作っている、と考えられます。つまり、
ことにより習慣化を促すのです。
新しい刺激への脳の保守的反応
しかし、私たちの脳は、この行動の変化に敏感です。不慣れなことは苦手なのです。既得習慣の中に新たな行動が入ってくると、
「あれ?今までとはなんか違うぞ。ヤバいんじゃね。」
と危機感を覚え、変化に抵抗して排除しようとします。危険を察知する防衛本能的なものです。新しい行動の習慣化が難しいのはこのためでもあり、新しい知識を覚えることも同様に難しいのは、この脳の抵抗反応、保守的性質のせいでもあります。
新たな行動を習慣にとりいれようとすると、最初は脳が、
「イヤイヤ」
するのですが、無意識に行動できるようになるまで繰り返すことにより、脳は、
「これって、前からあったヤツかも。」
と「だまされ(誤認し)」ます。
まず行動を起こし「作業興奮」状態を引き起こす
「とりあえず始めてみることが大切だ。」
「いいから、やってみろ。そのあと考えろ。」
みたいなことをよく耳にします。(ちょっと「昭和っぽい」やつです。)
これは、『まず「行動を起こす」ことにより、脳内の側坐核(そくざかく)と呼ばれる部位で「ドーパミン」が分泌され、モチベーションが高まり、「作業興奮」が生じ、行動を持続させる力になる』、という理論に基づいたものです。
「ちょっと面倒くさいけど、部屋が散らかってるから、少しだけ片づけようかな」と、軽く片づけを始めると、気づいたら部屋の隅々まできれいに掃除していた
という経験をしたことがあるかと思います。これが「作業興奮」状態の例です。行動を起こすことで、脳内でドーパミンが分泌され、モチベーションが高まり「作業興奮」状態になり行動が継続するのです。スイッチが入ってハイな状態(ハイ・テンション)になり知らないうちに集中して継続しています。
というような感覚です。
勉強や仕事にも似たような例があります。
「勉強したくないなぁ。。。でもやらなきゃ。。。」と、教科書を開き少し読みだすと、気づいたら集中して勉強している
というような経験はありませんか。
「いざ始めてみると意外とテンションが上がって行動できてしまう」ことがあります。「あまり気乗りしなくても、とにかく始めてみる」のが大切です。
つまり、
「やる気をだしてから、勉強する」のではなく、「勉強しだすと、やる気がでる」
のです。
「行動がやる気を引き出す」ということを認識するだけでも大きな違いになります。まずは「やることを最優先」にします。重い腰を上げるためにも「鼻をつまむ」などのアンカリングを利用すると効果的です。
Small Step:初動のハードルを低くする
「まずやってみる」から「習慣化」につなげるためには、『「まずやってみること」が「時間的に短いこと」や、「内容的にも行動的にも難しくない簡単なこと」』から始めてみると、行動開始しやすく、その行動から生まれるモチベーションが連鎖的に次の行動につながります。
例えば、新しく習慣化したい行動を「短い時間」から始め、それを繰り返すことによって、「脳をだます」ことができ、習慣化しやすくなります。
「脳の保守反応→脳に誤認させる→習慣化」の例を以下に示します。
以下、脳のココロの中です。
「あ、なんか新しいヤツ(行動)来た!ドーパミン、ぶっしゅ―。。。あれ、もう帰った。」
↓
「あ、また来た!ドーパミン、ぶっしゅー。。。また、帰りやがった。」
↓
「また来たんか!どうせすぐ帰るんでしょ。。。ほら、帰った。」
↓
「はいはい、来たか。こんにちは。今日はいい天気だね。ちょっとあがってドーパミン茶でも飲んでけよ。。。え、用事がある?そっかー。じゃ、また今度な。」
↓
「おう、お帰りー。」
っていう感じです。
こうして脳みそ君は、まんまとだまされます。「スモールステップ」って、こういうヤツです。スモールステップ君は、小さな成功体験をどんどん積み重ねていきます。そして習慣化するのです。
今度は『スモールステップ君』にも参加してもらいます。
『こんにちは。私はずーっと前から、あなたの家族です。』
⇒ 脳:「誰だよお前。知らねーよ。帰れよ。あ、帰った。」
↓
『オレだよ。オレ。覚えてないの?』
⇒ 脳:「また来たのか。知らないって言っただろ。帰ってくれ。。。あ、帰った。うーん。」
↓
『ただいまー。』
⇒ 脳:「・・・ヒロシ。」
みたいな感じです。家族になれたら、当たり前の習慣になります。
短い時間だったとしても、いったん習慣として身についてしまえば、あとから内容の難易度や量、時間を増やす、などを変えていくことが比較的容易になります。
最初から「毎日必ず3時間は勉強するぞ」のような、高い目標は避けたほうが無難です。まずは小さな成功体験を積み重ね、「やればできる」と思えることが大切です。
以下は、勉強開始のための「楽に飛び越えられそうなハードル設定」の例です。とにかく始めることを意識します。
・テストで間違った問題だけ解く
・解けそうな簡単な問題だけやる
・3ページ読むだけにする
・5分だけ勉強する
・漢字3つだけ覚える
・1問だけ解く
・教科書を開くだけにする
・スマホを隠す(アンカー)
・机の上を片付ける(アンカー)
・鼻をつまむ(アンカー)
勉強を習慣化するのが苦手な子供には、「時間は短く、難易度は低く」することがポイントです。例えば「3ページだけ教科書を読もう」と勉強を開始し、1ページしか読めなかったとしましょう。しかし、がっがりする必要はありません。どんな課題でも、それを行う上で最も難しいのが「課題を開始すること」なのです。まずは開始できたことをポジティブにとらえ、また、保護者も、「始められたね」と声をかけてあげましょう。
内容や時間は問わず、とにかく「やること」を「最優先」します。次の日、また次の日、と、スモールステップで簡単なことを習慣化していき、脳に「誤認」してもらいます。ちなみにですが、「作業興奮」状態が発生するのは、行動開始後5分程度と言われています。「とりあえず5分だけやる」と決めて、開始したら、知らないうちにエンジンがかかっているかもしれません。「これならできそう」と思えることから勉強を始めてみましょう。その小さなことの繰り返しが、学習習慣に結びついていくのです。
その3のさいごに
習慣化するにあたって、最も困難な初動に関して「スモールステップと脳の働き(作業興奮)」という観点からお話してきました。行動心理学の内容も含まれています。
次回は作業興奮に関連させて、類似性のある考え方や、習慣化のための他の方策などをお話していく予定です。