前回の「~勉強しているのに~その8」の続きです。
このシリーズはこれで最後とさせていただきます。
前回までの復習をします。
「同じ時間、(表面上)同じ勉強をしていても成果に差があるのはなぜか」を、
「英単語100個を明日までに覚えてくる」
という宿題を例に挙げ、6人の子供の英単語の覚え方とその効率性の話をしていました。
・子供A1、子供A2はコンフォートゾーンにいる。見ているだけで脳に適度な負荷がかかっていない。
・コンフォートゾーン=快適・安心(Comfort)領域 = 脳に負荷のかかっていない勉強
・子供B1は、見ているだけだがストレッチゾーン。「現在の能力をわずかに上回る課題(苦手な単語)を練習し続ける」という『限界的練習』と『スモールステップ(抽出)』により、「脳に適度な負荷」を、『「狭めた範囲」かつ「短時間」に「集中的に」』かけるので、努力エネルギーの変換効率が高く、スモールステップにより小さな成功体験も積み重なる。
・ストレッチゾーン=背伸び・成長(Stretch)領域 = 脳に「適度な」負荷のかかっている勉強
・子供B2は、10個に区切る「スモールステップ」と「覚える」という「想起学習(思い出すこと)」を組み合わせ、その「想起学習」を繰り返すことにより、脳に負荷がかかり、脳内のシナプス結合が強化され、想起の学習促進効果(テスト効果)が高まる。
・学習とは「知識のインプット」だけではなく、「アウトプット(想起)において行われる」 もの。
・子供B3にとって、子供B2との大きな違いは、「間隔をあけて復習している」こと、すなわち「分散学習」をとりいれていること。「間隔をあけて復習する」ことにより、より脳に負荷がかかり、記憶の定着が促進される 。
・「エビングハウスの忘却曲線」と、「ウォータールー大学による忘却曲線」によると、効率的に思い出すための復習の最適なタイミングは、1日後 → 1週間後 → 1か月後 。スマホアプリを利用するとよい。
(以下、今回の内容です。)
- ストレッチゾーン(成長領域)にいる子供B4
- 上記学習方法を「より効率的に」行うために、組み合わせるとよい「その他の学習法」
- ブロック学習
- インターリーブ学習
- インターリーブ学習とツァイガルニック効果
- インターリーブ学習とポモドーロテクニック
- シリーズさいごに
ストレッチゾーン(成長領域)にいる子供B4
・英単語100個を10個ずつに区切る。
(スモールステップ)
※スモールステップとは、本来は、「簡単なことから始めてみる」という習慣化の初動の方法ですが、今回は「範囲を小さく限定する」というような意味でこの用語を使っています。
↓
・10個全部を繰り返し覚えるのではなく、10個の中から苦手なものだけ抜き出し、それを集中的に覚える。
(想起学習(テスト効果)+スモールステップ+限界的練習)
↓
・覚えてから次の10個に移って、やはり苦手なものを抽出して集中的に覚える。
(想起学習(テスト効果)+スモールステップ+限界的練習)
↓
・その後、以前覚えたものを復習する。復習するときも苦手なものをピックアップしながら覚える。
(想起学習(テスト効果)+分散学習+スモールステップ+限界的練習)
↓
・復習を終えて覚えたら、次に進む。
…
子供B4は、「子供B3」と同じ(区切る+覚える+少し間隔をあけて覚えなおす)ですが、10個ずつに区切って覚える際、10個全部を繰り返すのではなく、10個の中から苦手なものだけ抜き出しそれを集中的に覚える、という方法を追加しています。これをそれぞれのスモールステップで行います。
したがって、
「スモールステップ」…区切る、抽出する
「想起学習(テスト効果)」…自分でテストして思い出しながら覚える
「分散学習」…間隔をあけて覚え直す(復習する)
「限界的練習」…苦手なものに集中して覚える(自分の能力を適度に超える負荷をかけて練習する)
という学習方略を「総動員」して、英単語を「極めて効率的に」学習しています。
「その1」で説明した、「努力エネルギーの変換効率」が「極めて高く」、成果に結びつきやすいのです。
「英単語100個を明日までに覚えてくる」の例は、以上で終了になります。
以下、さらに「効率性」を追求していきます。
上記学習方法を「より効率的に」行うために、組み合わせるとよい「その他の学習法」
「英単語を覚える」、というような課題は、同じ勉強を何度も繰り返すことになります。
そして、英単語を覚え終わったら、例えば、「英文法の練習をする」、というように、次の異なる課題に進みます。
このような学習は「ブロック学習」といいます。
ブロック学習
しかし、同じことの繰り返しは、飽きてきますし、集中力が続かないこともあります。
したがって、
英単語を覚える → 英文法の練習をする → 英単語を覚える → 英文法の練習をする → …
というように異なる課題をはさんで学習すると飽きないため、集中力が持続しやすくなります。
このような学習法を「インターリーブ学習」といいます。
インターリーブ学習
※「インターリービング学習」とも呼ばれ、「同時並行学習」とほぼ同義。
今回の例のように、
英単語を覚える → 英文法の練習をする → 英単語を覚える → 英文法の練習をする → …
と、2つの課題を交互に行う練習のことを、特に「交互学習(練習)」といいます。
interleaveとは、「間に挟む、差し込む」とか、「交互に配置する」という意味です。
また、
英単語 → 英文法 → 英語のリスニング → 英語長文
→ 英単語 → 英文法 → 英語のリスニング → 英語長文
→ …
というように、3つ以上の課題を行う場合は、特に「ランダム学習(練習)」と呼ぶこともあります。
上記のようなインターリーブ学習(同時並行学習・交互学習・ランダム学習)は、本来は、『関連性のある』異なる課題を混ぜて学習します。
つまり、英語なら英語、数学なら数学、というように同一科目内で関連性のある異なる課題を混ぜて学習することになります。
異なる課題でも関連性があれば多少なりとも相乗効果が期待できます。
このインターリーブ学習(練習)は、楽器やスポーツの練習にも取り入れられています。
インターリーブ学習は、学習や練習に『変化』をつけることによって、脳に、より負荷をかけることができます。
脳が退屈しなくなる、脳が楽をしなくなる、のです。
インターリーブ学習により、複数の異なる情報が入力されたため、脳内で情報を整理・分類しなくてはならないですし、間隔があいたことにより、忘れかけたことを再度想起したりしなければならない、というような負荷を多く経験することになります。
インターリーブ学習による「変化」のため、脳に刺激的負荷が加わり、記憶力が向上するのです。
また、「変化」により、気持ちも切り替わり、集中力も維持しやすくなります。
しかし、インターリーブ学習で変化をつけながら学習することは記憶において効果的ではあるものの、一度で全ての内容を覚えるきることはほぼ不可能です。
やはり、繰り返し反復する練習は必要になります。
したがって、集中的に行う「ブロック学習」と、変化をつける「インターリーブ学習」を組み合わせることによって相乗効果が期待できると考えられます。
また、課題ごとに「ブロック学習」と「インターリーブ学習」を分けて使うことも必要になります。
例えば、自分が得意な科目で、集中力が維持できる場合は「ブロック学習」のほうが効果的です。また、体系的に学習したほうがよい英文法などは「ブロック学習」を行い、ある程度の時間をかけて集中的に学習したほうが理解しやすいと考えられます。
しかし、苦手で集中力が途切れがちな科目や、退屈で単調になりやすい英単語学習などは、変化をつける「インターリーブ学習」を取り入れるといいかもしれません。
ここまでのまとめ
・「インターリーブ学習」で変化をつけながら、「ブロック学習」で集中的に反復学習するとよい。
・課題内容や、学習者の興味・関心の程度により、「ブロック学習」と「インターリーブ学習」を使い分けるとよい。
インターリーブ学習とツァイガルニック効果
先ほど、インターリーブ学習は『本来は』関連性のある異なる課題を混ぜて学習する、とご説明しましたが、あえて全く異なる内容の課題を混ぜる方法もあります。
例えば、
英語 → 数学 → 社会 → 理科
→ 英語 → 数学 → 社会 → 理科
→ …
などです。
この方法は、課題間の関連性はほぼ無くなりますが、関連性のある課題を切り替えて学習するよりも、作業が「中断」される感覚が増します。
未完了のまま中断される課題は、それに対する関心や不安が高まり、人の意識に強い印象として残ります。
例えば、中途半端な状態であっても、決まった時間がきたら強制的に課題を終了し、次の課題に進まなければならない場合、学習者は「さっきまでやっていた中途半端な勉強の続き」「やり残し感」を強く意識するため、その課題解決や達成感を求める心理的プロセスを引き起こすのです。
このような心理現象のことを「ツァイガルニック効果」といいます。
したがって、勉強中に休憩をとる場合は、あえて中途半端な状態で作業を終えたり、「切りがイイ」ところで課題が終わったとしても、あえて次の課題を開始してから休憩をとったほうが、再開時のモチベーションが維持しやすく、「中断された物事の方が頭に残りやすい」という「ツァイガルニク効果」が得られることになります。
インターリーブ学習とポモドーロテクニック
さきほど、「中途半端な状態であっても、決まった時間がきたら強制的に課題を終了する」というお話をしました。
この「時間を決めて」行う学習において、集中力が持続する時間はどれくらいといわれているのでしょうか。
人間の脳が高い集中力を維持できるのは、15分とも45分とも90分とも言われています。15分周期説が有力なようです。
インターリーブ学習により、異なる課題を行う場合は、この高い集中力を持続できる時間を目安にするといいと思います。
ここで、有名な「時間管理術」をご紹介します。
集中して作業する時間と、その後の休憩時間のセットを繰り返すことで、仕事のペースを作り出し、作業効率を高めるための時間管理術。
一般的には、「25分の作業+5分の休憩」を1セットにし、4セット(2時間)ごとに30分間の休憩をとる、とされている。
イタリア人のフランチェスコ・シリロさんによって考案された時間管理術で、シリロさんがトマト型(イタリア語でトマトは「ポモドーロ」)のキッチンタイマーを使っていたことから、この名前がついたようです。
ポモドーロテクニックのポイントは「超・集中」と「超・休憩」です。
・「25分」という枠組みを設定することで、終了時間(時間制限)を意識し、集中力が高まる。
・「25分」内に「終わらせたい」「終わらせなければならない」というような意識が働き、「超」集中するので、無駄な作業が減り効率化が促進される。
・「25分」は、開始するのに長いと感じる時間ではなく、スタートしやすい(習慣化しやすい)。また「25分作業+5分休憩=30分」という、「ちょうどよい時間の区切り」を「パッケージ化」したことにより、「極めて単純な仕組み化」されているため取り組みやすい。
・「25分+5分」→「25分+5分」→ …とテンポよく(リズムにのって)作業しやすい。
・必ず休憩をとることが重要。効率が悪くなるのは脳の疲労が原因。脳の疲れをとるための休憩をしっかりとる。
・作業に集中できる時間は個人差があるため、必ずしも「25分」である必要はない。
・「25分」など、決められた作業時間がきたら、中途半端なところでも必ず中断することが重要。さきほど説明した、「途中で中断された課題の方が意識や記憶に残りやすい」という「ツァイガルニク効果」が得らる。
インターリーブ学習により異なる課題を行う場合は、このポモドーロテクニックを併用し、25分ごとに休憩を入れながら学習課題を変えることで、常に高い集中力を保ちながら効率的に学習することができます。
シリーズさいごに
これまで、「勉強という努力エネルギー」の「変換効率」を高め、成果につなげるためのお話をしてきました。
同じ時間勉強していても、成果に差があるのは、この「努力エネルギーの変換効率の差」である、と述べてきました。
再度、メジャーリーガー・ダルビッシュさんのX(Twitter)でのつぶやきを引用させていただきます。
『練習は嘘をつかないって言葉があるけど、
頭を使って練習しないと普通に嘘つくよ。』
せっかく努力して勉強しているのに、もったいないのです。
脳に負荷をかけて、アタマに汗をかいて勉強するための、
「ストレッチゾーン」
「想起学習」
「テスト効果」
「分散学習」
「限界的練習」
「インターリーブ学習」
などをご紹介することによって、学習効率を高める一助になれたとしたら幸いです。
勉強は受動的になりやすいものです。
ご紹介してきたような様々な学習方法を取り入れるということは、ただ与えられた課題を勉強するという「受動的」行動ではなく、自ら「能動的に」学習することになります。
この「能動性」により、脳に良い刺激が与えられ、より記憶力が向上し、学習効果が高まります。
そして、自ら考えて行う学習は、より大きな成功体験へとつながっていくのです。
「~勉強しているのに~」シリーズは、これで最後とさせていただきいます。
さいごまで読んでいただき、ありがとうございました。
また、全シリーズ読んでいただいた方々、
おつきあいいただき、
ほんとうにありがとうございました。
※ 次からは、タイトルを短くできたらいいなぁ、と考えています。。。
以下、「うちの子、けっこう勉強してるのに成績が伸びないんです。」【なぜ勉強しているのに成果が出ないのか?】シリーズのリンクです。
・その9:インターリーブ学習とこれまでのまとめ【本記事です】