【教育】「うちの子、けっこう勉強してるのに成績が伸びないんです。」【なぜ勉強しているのに成果が出ないのか?】その4:限界的練習
前回の「~勉強しているのに~その3」の続きです。
少し復習します。
「同じ時間、(表面上)同じ勉強をしていても成果に差があるのはなぜか」
を考察していました。
「英単語100個を明日までに覚えてくる」
という宿題を例に挙げ、6人の子供がどのように英単語を覚えるか、そしてその効率性の話をしていました。
脳に「適度な」負荷のかかる成長領域である「ストレッチゾーン」に身を置くことが「成長への近道である」
とお話しました。
・コンフォートゾーン=快適・安心(Comfort)領域(Zone)
=脳に負荷のかかっていない勉強
・ストレッチゾーン=背伸び・成長(Stretch)領域(Zone)
=脳に「適度な」負荷のかかっている勉強
・パニックゾーン=混乱(Panic)領域(Zone)
=脳に「過度な」負荷のかかっている勉強
コンフォートゾーンから自らは出られない子供が、ストレッチゾーン(成長領域)に身を置くためには、
・「保護者や指導者、仲間からの言葉かけ」が必要であったり、
・ どんなことでもいいので、
「新しいことにチャレンジ」したり、
「それまでやったことないことを経験する」
ことで、ストレッチゾーン内でかかる負荷に慣れて、勉強における負荷にも慣れやすくする、というお話をさせていただきました。
(以下、今回の内容です。)
- その4 はじめに
- コンフォートゾーンにいる子供
- ストレッチゾーンにいる子供B1
- 限界的練習(Deliberate Practice)(意図した/熟考した 練習)
- ストレッチゾーンにいる子供B1(続き)
- スモールステップ
- ストレッチゾーンにいる子供B1(続きの続き)
- 限界的練習の重要ポイント
- その4 さいごに
その4 はじめに
「英単語100個を明日までに覚えてくる」
※ 英単語をみて日本語(意味)を書く、というテスト(100問)が明日あるとします。
※ 以下の例の子供の「勉強時間は同じ」とします。
という宿題に対する6人の子供がとった勉強方法をそれぞれ見ていきます。
コンフォートゾーンにいる子供
・コンフォートゾーン=快適・安心(Comfort)領域(Zone)
=脳に負荷のかかっていない勉強
=努力エネルギーの変換効率が悪い
=成長が遅い、成果が少ない
子供A1:英単語100個を最初から最後まで見る。そしてまた最初に戻って繰り返し見る。
⇒工夫した方法もとらず、ただ見ているだけの【脳に負荷がかからない】勉強ですので、完全にコンフォートゾーンにいます。
子供A2:英単語100個を10個ずつに区切る。最初の10個を繰り返し見たら次の10個に移って見る。これを繰り返し、最後までいったらまた最初に戻る。
⇒10個ずつ小分けにしてスモールステップという方法をとっているので、10個を集中的に繰り返すことはできるが、見ているだけで、脳に負荷がかからない。
次の10個も見るだけ。小分けにしているが、脳にかかる負荷は、100個全体を繰り返すのと大差ない。「区切る」というスモールステップの方法をとったことにより、「アタマをつかって勉強した気にはなる」が効果はほぼない。
つまり、ストレッチゾーンに向かおうという意識はあるものの現状はコンフォートゾーンにいるのです。そして、スモールステップという方法をとっているので、自分がストレッチゾーンにいると思い込んでいます。(誤ったメタ認知)
自分がどの領域にいるかをメタ認知することは大切です。自分で認識できない場合は、保護者や指導者からの配慮のある言葉がけが必要になります。勉強をしている、努力をしている、方法も考えている、ということに共感し認めつつ、ストレッチゾーンに向かわせるような言葉がけになります。(←後日、お話する予定です。)
ストレッチゾーンにいる子供B1
・ストレッチゾーン=背伸び・成長(Stretch)領域(Zone)
=脳に「適度な」負荷のかかっている勉強
=努力エネルギーの変換効率が良い
=効率的に成果・成長に反映される
子供B1:英単語100個を最初から最後まで見る。そして100個の中から、自分にとって覚えられない、または覚えにくい単語をピックアップして、その選んだ単語を集中的に繰り返し見る。
⇒見るだけなので負荷の程度は軽いものの、「抽出した苦手な英単語を集中的に繰り返す」ことで脳に負荷がかかる。
この「苦手な部分を集中的に繰り返す」のは『限界的練習』といいます。
限界的練習(Deliberate Practice)(意図した/熟考した 練習)
限界的練習=Deliberate(故意の、意図した、計画的な、熟考した上での)Practice(練習)=(考えた上で)意図的に(自分の能力を少し超えた)練習をすること
⇒ 「自分の限界をギリギリ超えた練習をすること」となり、日本語では「限界的練習」と訳されます。「ディーププラクティス」と呼ばれる学習法も、この限界的練習とほぼ同じです。
脳に、自分の能力を少しだけ超える負荷をかけ続けることになります。「それまでできなかったことに挑戦する」ので、「ただやっているだけの練習」ではなくなり、コンフォートゾーンから出て、ストレッチゾーンに身を置くことになります。
要領のいい人はこの「限界的練習」を意識して、あるいは無意識に行っています。今できている事よりも少しだけ難しいことを自分に課すので、脳に適度な負荷がかかり、少しきつい練習ではあるが、これを積み重ねることで日々、成長していくのです。
繰り返しになりますが、「少しだけ」自分の能力を超えた負荷 、というのがポイントになります。脳に「過度」な負荷をかけると、精神的負担が大きすぎてパニックゾーンになり、練習が続けられなくなります。
ストレッチゾーンにいる子供B1(続き)
先ほどの子供B1は「苦手なところ」を発見し「抽出」しています。
・「苦手なところ」を発見 =「脳にかかる負荷」の発見
・「抽出」=多くの単語から「負荷がかかるものだけ」選んで「数を減らしている」
=スモールステップで「負荷」のみ集中練習
=努力エネルギーの変換効率が高い
「苦手なところの発見」は「脳にかかる負荷の発見」であり、その「負荷部分」のみを「抽出」することによって練習範囲を狭めている、つまり「スモールステップ」という方法を採用しています。
スモールステップのおかげで、苦手部分の負荷のみに集中的に努力エネルギーを投下できるので、かなり効率がよく、成果・成長がみこめます。(すべての子供の勉強時間は同じという前提があります。)
スモールステップ
スモールステップとは、本来は、「簡単なことから始めてみる」という習慣化の初動の方法です。新しいことを取り入れることに保守的な反応を示す脳に、「簡単で短時間」の刺激を繰り返し与えて習慣化しやすくする方法です。今回は「範囲を小さく限定する」というような意味でこの用語を使っていきます。
先ほどの「限界的練習」と「スモールステップ」を組み合わせること により、「脳に適度な負荷」を、『「狭めた範囲」かつ「短時間」に「集中的に」』かける ことができるのです。したがって、努力エネルギーの変換効率が高まる のです。
さらに、スモールステップにすると、「覚えた!」という小さな成功体験がどんどん積み重なっていきます 。
また、スモールステップにより、「短時間」で「集中的に」練習するためには、あえてきつめの時間制限を設定する のもひとつの方法です。例えば10個の英単語を「2分」で集中して覚えてみるなど。
「2分」という制限時間を設けると、
①「最初の30秒」で「知っている」「知らない」単語をササっと分けて印をつけ、
②「次の30秒」は、「1週目の苦手抽出のために見た時に覚えられた単語」を、苦手リストから削除しつつ、「知らなかったけど比較的覚えやすかったため新たに覚えられた単語」もリストから除外し、
③ 残りの1分は残った本当に覚えにくい単語「のみ」に集中して覚える、
というように、「効率化を極めた」練習方法を採用していくことになります。(スモールステップの「マトリョーシカ状態」。次々と覚えるものを限定していく。)
パニックゾーンに行かない程度の負荷のある制限時間設定は、このように成長速度を速めることにもなるので、限界的練習のいい「練習」になります 。
限界的練習ではこの「集中」にこだわるのです。ただ「ボーっと」練習しているのとは雲泥の差ですし、チコちゃんに叱られます。
ストレッチゾーンにいる子供B1(続きの続き)
子供B1は、どの部分が苦手なのか、どの部分を改善する必要があるのか、抽出できています。つまりメタ認知できています。自らを省みて(自分で自分にフィードバックさせて)気づいています。(←この事も後日詳しくお話させていただきます。)
自ら気づかない場合は、保護者や指導者がフィードバック し、苦手なポイントを明確にして、その苦手ポイント克服という目標を掲げ、集中的に「限界的練習」を行うことになります。
しかし今回の子供B1は、せっかく自分の苦手部分を発見しているのに「見るだけ」で「覚えていない」。つまりチャレンジしているだけで「出来るようにしていない」 のです。
「限界的練習」と「スモールステップ」という方法を採用し、苦手部分のみに集中的に「チャレンジ」しているので、子供は、
『なんか、オレ、努力して勉強してるぞ!』
と感じて、
『よし、こんなに勉強したから、明日は100点だ!』
と、覚えた気になってしまうのです。
(けっこうイイ線までいっているんですけどね。)
「出来ないところ」を「出来るようにする」のが「覚える」つまり学習です。
そして、この「覚える」は『覚えきる』という表現が正しいのです。(←「覚える」に関しては後日お話します。)
この「やる」だけでなく『やり抜く』ことは、今後の人生でも大切な考え方です。
限界的練習の重要ポイント
1.自分の能力を少しだけ超える負荷をかけ続けること。
⇒ コンフォートゾーンから抜け出し、ストレッチゾーンに足を踏み入れること 。
2.集中して行うこと。
⇒ 全神経を集中させた練習をスモールステップにして繰り返すこと。
3.明確な具体的目標があること。
⇒ 英単語テストで100点目指す、など。
目標を「意識」するだけで、 目標なしで練習するよりも効率が上がる 。
4.フィードバックが大切。
⇒ 自分の苦手なところはどこか。はたしてこの練習方法でいいのだろうか。うまくいっていないとしたらどうしたらいいのか。
上記「限界的練習の重要ポイント」のうちの最も重要な「核」は、「1」の「自分の能力を少しだけ超える負荷を集中的にかけ続けること」です。
『今できることを繰り返すのではなく、常に自分の「できないこと」を「できる状態」になるまで繰り返す』ことです。
また、次のステップ として、「できないことだけでなく、今できることを、『より高いレベルでできる』ように練習を工夫・変化させていく こと」も大切です。
その4 さいごに
今回は『限界的練習』と『スモールステップ』を組み合わせて、努力エネルギーの効率的変換のお話をさせていただきました。
「苦手なところ」を「抽出」して「集中的に」練習するときの脳にかかる適度な負荷、この負荷が子供を成長させるのです。そしてその後もその適度な負荷を常にかけていけば、成長は止まらない のです。
次回は限界的練習のつづきの予定です。
最後まで読んでいただいて、ありがとうございました。