ふすまのスキマ

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【教育】「うちの子、けっこう勉強してるのに成績が伸びないんです。」【なぜ勉強しているのに成果が出ないのか?】その6:想起学習とテスト効果

 前回の「~勉強しているのに~その5」の続きです。

 前回までの復習をします。

コンフォートゾーン=快適・安心(Comfort)領域
=脳に負荷のかかっていない勉強
ストレッチゾーン=背伸び・成長(Stretch)領域
=脳に「適度な」負荷のかかっている勉強
パニックゾーン=混乱(Panic)領域
=脳に「過度な」負荷のかかっている勉強

 
「同じ時間、(表面上)同じ勉強をしていても成果に差があるのはなぜか」を、
英単語100個を明日までに覚えてくる」
という宿題を例に挙げ、6人の子供の英単語の覚え方とその効率性の話をしていました。 

子供A1、子供A2はコンフォートゾーンにいる。見ているだけで脳に適度な負荷がかかっていない。
子供B1は、見ているだけだがストレッチゾーン。「限界的練習」と「スモールステップ」により、「脳に適度な負荷」を、『「狭めた範囲」かつ「短時間」に「集中的に」』努力エネルギーの変換効率が高く、スモールステップにより、小さな成功体験が積み重なる。
「限界的練習」とは、「現在の能力をわずかに上回る課題を練習し続けること」 。例:ピアノの練習
・スモールステップとは、「簡単なことから始める」という習慣化の初動の方法。今回は「範囲を小さく限定する」という意味で使用。
・「限界的練習」をしていても、苦手部分が改善されないときは、「長時間やる」「もっと頑張る」のではなく、「今の方法をより良く変える」または「別の方法を試す」 。「」である「戦略」を重視する。

(以下、今回の内容です。)

 

ストレッチゾーンにいる子供B1(復習含む)

子供B1:英単語100個を最初から最後まで見る。そして100個の中から、自分にとって覚えられない、または覚えにくい単語をピックアップして、その選んだ単語を集中的に繰り返し見る

 

 ⇒見るだけなので負荷の程度は軽いものの、「抽出した苦手な英単語を集中的に繰り返す」ことで脳に負荷がかかっています。つまり「現在の能力をわずかに上回る課題を練習し続ける」という『限界的練習』をしています。

 

 しかし今回の子供B1は、せっかく自分の苦手部分を発見して『限界的練習』をしているのに「見るだけ」「覚えていない」。つまりチャレンジしているだけで「出来るようにしていない」のです。「出来ないところ」を発見し、その部分を集中的に練習し、「出来ないところ」「出来るようにする」のが「覚える」つまり学習です。

 

ストレッチゾーンにいる子供B2

子供B2:英単語100個を10個ずつに区切る 。最初の10個を繰り返して覚えてから次の10個に移って覚える。これを繰り返し、最後までいったらまた最初に戻る。

 

 ⇒最初の10個を覚える、という、脳に負荷がかかる勉強。「区切る」というスモールステップにより、「覚える」という負荷がかかる勉強が「何度も」行われる。

 

 子供B1は「見る」(インプット)だけでしたが、子供B2「覚えること」(アウトプット) をしています。この点が大きな違いになります。

 

「覚える」とは

 本当の意味での「覚える」とは、脳に記憶した内容を「思い出すことができるようにする」ということです。
 つまり、「インプット」した内容を「アウトプットできるようにする」ということです。

 

 勉強において、「インプットする、暗記する、記憶する」、ことを「覚えた」と考えている場合が多いのですが、そうではありません。実際は「アウトプットすることができる」ようになって初めて「覚えた」と言える のです。アタマに入れた内容を取り出せるようにならないと意味がありません。

 

 したがって、「暗記する、記憶する」といった「インプット」作業にかける時間よりも、「思い出す」という「アウトプット」作業を重視することが大切になってきます

 

アウトプットのための学習:想起学習

 いったん脳に入れた知識を「取り出す」、つまりそれを「思い出す」ことを「想起学習」といいます。脳内を検索して取り出そうとするので、「検索練習」ともいいます。

 

 最初のうちは思い出すことに大変苦労し、ストレスを感じるかもしれません。しかし、「苦労して思い出す」という負荷が脳にかかっているのですこの負荷をかけ続けると記憶が定着しやすくなるのです。

 

「えーっとー。。。なんだっけー。。。うーんとぉー。。。あれぇ。。。なんだっけかなぁ。。。」

 

と、思い出そうとすること、この苦労の負荷が大切なのです。

 

 脳は、記憶して思い出す、という過程にかかった努力(苦労)という負荷の量を重要視します 。さっと見ただけの情報は、苦労という負荷がかかっていないので、すぐに脳から忘れ去られます。ですから、見ただけの内容は「覚えた気になっている」だけで、思い出せないのです

 

 記憶を思い出そうとして、結局思い出せなくても、思い出している間(想起中)は脳に負荷がかかっています。その負荷が脳には大切なのです。

 

 思い出せなくて、すぐに答えをみたり調べたりするのは良くありません。脳に十分な負荷がかかっていないからです。悩んでしっかりと思い出そうとして頑張ってから、答えをみたり調べ直したりすることが記憶の定着に重要です

 しっかりとした負荷が脳にかかった後に、このように答えをみたり調べたりすると、脳は「この情報は大切なんだなぁ」と認識します。その結果、短期記憶から長期記憶に移行していくのです。

 

 また、忘れたとしても、想起努力という過程を、脳はさらに経験することができ、記憶の定着が促進されます。

 

 つまり、負荷のかかった想起プロセスを何度も経験することが、脳に記憶の重要性を認識させることになるのです。

 

 そして、やっとのことで思い出すことができたとき、記憶はさらに強化されていきます。

 

 想起学習のポイント
・脳に負荷のかかる想起プロセスを何度も経験すること。
・苦労した想起プロセスを経て思い出せたとき、記憶はさらに強化されること。

 

脳科学からみた脳の想起プロセス

ニューロン神経細胞同士の接続部分=シナプス
 ↓
学習したことはシナプスに記憶される
 ↓
想起学習(思い出すこと)をすると脳が刺激を受け活性化
 ↓
神経伝達物質シナプスを通過
 ↓
想起学習を繰り返すと神経伝達物質シナプス繰り返し通過
 ↓
シナプス結合が強化される
 ↓
情報(神経伝達物質)がシナプス通過しやすくなる
(通路が太くなる、とか、通路が増える、っていう感じ)
 ↓
多くの情報を受け渡しできる
 ↓
記憶を取り出しやすくなる

 

 以上のように、脳に記憶(インプット)された情報は、想起学習(思い出すこと)を繰り返すことにより、シナプス結合が強化され(道が広くなり)、情報の行き来がしやすくなり、アウトプットしやすくなるのです

 このシナプス結合が弱いと記憶の想起が困難になります。

 思い出せなくてもいいので、思い出そうと試みる「想起学習」を繰り返すことにより、シナプス結合が強化され、思い出しやすくなっていくのです。

 脳に負荷がかかっていない「見るだけ」の勉強だと、シナプス結合が強化されないのです。


補足:記憶再固定化
 脳内の記憶を思い出した後は、その記憶が再び固定され、脳内に再保存されます 。そのプロセスは「記憶再固定化」といいます。これにより、さらに記憶は強化されます。

 

想起の学習促進効果(テスト効果

 さきほどもお話いたしましたが、

「学習とは知識のインプット」だけではありません。
学習はアウトプット(想起)において行われる」のです。

 

 学んだ内容を思い出すこと(想起学習)によって記憶に留めるための具体的な手法は、単純なことですが、テストをすることです。この想起の学習促進効果は「テスト効果」と呼ばれています。

 

 テストと言えば、「アタマに残っているか」を調べるためのもの、という考えもありますが、「アタマに残っているものを思い出せるか、引っぱり出せるか」というアウトプットのための方法 なのです。

 

 自分で小テストなどをする際は、「アタマに残っていることの確認」というより、「覚えていることを引っぱり出して吐き出す」という意識を持つことが大切です。
 そしてさらには、「テストをするのは忘れないためだ」という意識をもってテストをします。

 

 英単語を覚える場合の簡単なテストの例として、

・意味を隠して自分でテストする
・ノートに書きだして問題を作ってテストする
・保護者や友達に手伝ってもらってテストする

などがあげられますが、今回はテストの仕方の詳細は述べないでおきます。

 

 いずれにせよ、「間違えてもいいから、頑張って思い出そうとすること」が大切です。この思い出そうとすることにより、脳内のシナプスが強化され、記憶をアウトプットしやすくなります

 

 さらに、自分でテストをして忘れていた単語があった場合、「忘れた単語を思い出す」ことになり、想起学習の経験値があがります。さきほど述べた「記憶再固定化」につながるのです。

 

想起学習をスモールステップで

 子供B2は、「英単語100個を10個ずつに区切る。最初の10個を繰り返して覚えてから次の10個に移って覚える。」を繰り返します。

 10個に区切るというスモールステップにより、「遠い目標+テスト」ではなく、「近い目標+テスト(想起)」、「近い目標+テスト(想起)」、「近い目標+テスト(想起)」と繰り返すことになります。

 この想起の繰り返しによりテスト効果が高まります

 またスモールステップで近くに目標を置くことにより、小さな成功体験を積み重ねることができ、達成感や自己肯定感が満たされていき、学習動機へとつながります。

 

その6のさいごに

 いわゆる通常の「テスト」の
「自分がどこまで覚えているかの確認」
「忘れていることや間違いの気づき」
「忘れていたものを再インプット」
というメリットへの意識に加え、
「想起テストによる記憶の定着を意識すること

が大切です。

 つまり、今回お話したテストは、

「記憶の忘却を防ぐためのテスト」

なのです。

 

 次回は、「子供B3」に関してお話する予定です。

 さいごまで読んでいただき、ありがとうございました。