ふすまのスキマ

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【教育】「うちの子、けっこう勉強してるのに成績が伸びないんです。」【なぜ勉強しているのに成果が出ないのか?】その7:想起と分散学習

 前回の「~勉強しているのに~その6」の続きです。

 前回までの復習をします。

「同じ時間、(表面上)同じ勉強をしていても成果に差があるのはなぜか」を、
「英単語100個を明日までに覚えてくる」
という宿題を例に挙げ、6人の子供の英単語の覚え方とその効率性の話をしていました。

コンフォートゾーン=快適・安心(Comfort)領域 = 脳に負荷のかかっていない勉強
ストレッチゾーン=背伸び・成長(Stretch)領域 = 脳に「適度な」負荷のかかっている勉強
パニックゾーン=混乱(Panic)領域 = 脳に「過度な」負荷のかかっている勉強
子供A1子供A2はコンフォートゾーンにいる。見ているだけで脳に適度な負荷がかかっていない。
子供B1は、見ているだけだがストレッチゾーン。「現在の能力をわずかに上回る課題を練習し続ける」という『限界的練習』と『スモールステップ』により、「脳に適度な負荷」を、『「狭めた範囲」かつ「短時間」に「集中的に」』かける。すると、努力エネルギーの変換効率が高く、スモールステップにより、小さな成功体験が積み重なる。
子供B2は、10個に区切る「スモールステップ」と「覚える」という「想起学習(思い出すこと)」を組み合わせ、「テスト効果」を高めている。
思い出せなくてもいいので、思い出そうと試みる「想起学習」を繰り返すことにより、脳に負荷がかかり、脳内のシナプス結合が強化され、想起の学習促進効果(テスト効果)が高まる
・学習とは「知識のインプット」だけではなく、アウトプット(想起)において行われる」もの

(以下、今回の内容です。)

ストレッチゾーンにいる子供B3

子供B3:「子供B2」と同じ(スモールステップ+覚える「想起学習」)だが、新しい10個を覚えたら、「以前覚えた10個を復習する」という勉強が加わる。

 ⇒「間隔をあけて覚えなおす(復習する)」という、脳にさらに負荷のある勉強を追加している 。)

 

 子供B3は、

 最初の10個[1~10]を覚える
(つまり自分でテストをすることにより、思い出すという想起学習をする)
 ↓
 次の10個[11~20]を覚える
(上と同じようにテストをして想起学習する)
 ↓
 以前覚えた最初の10個[1~10]を覚え直す
(復習なので『間隔があいた後』、テストをして想起学習する)
 ↓
 さきほど新しく覚えた10個[11~20]を覚え直す
(復習なので『間隔があいた後』、テストをして想起学習する)
 ↓
 次の10個[21~30]を覚える
 ↓
 パターン1最初の10個「1~10」復習し、「11~20」も復習し、「21~30」を復習する。
 パターン2最初の10個「1~10」 を復習しないで、ひとつ前に覚えた10個「11~20」を復習し、「21~30」を復習する。
 ↓
 次の10個[31~40]を覚える
 …

 を繰り返すことになります。

 途中で、パターン1にするかパターン2にするかは、最初の「1~10」を復習した時の定着度合いによって変えることになると思います。しっかり覚えていれば、「1~10の復習」はとばしていいのです勉強する時間は限りがあるからです

 しかし、とばした場合は、ある程度、例えば「41~50」ぐらいまで覚えたら、再度「1~10」に戻って復習するのもいいと思います。

 

 想起学習」を繰り返せば繰り返すほど、脳に負荷がかかり、脳内のシナプス結合が強化され、想起の学習促進効果(テスト効果)が高まります 。(勉強にかけられる時間制限内ではありますが。)
 

分散学習

 子供B3にとって、子供B2との大きな違いは、「間隔をあけて復習する」ことです。
 「間隔をあけること」により、思い出すのに苦労します。脳にさらに負荷がかかるのです 。この「時間をあけて思い出す困難さによる負荷」のおかげで記憶がさらに定着しやすくなるのです。

分散学習=学習した(覚えた)ことを、間隔をおいて繰り返し覚え直すこと

※「1時間勉強して10分休憩をして、また1時間勉強する」、といった、「休憩をはさんだ学習」や、「一夜漬けの勉強ではなく、毎日コツコツ行う勉強」も「分散学習」といえます。
※分散学習に対して、まとまった時間勉強したり、一夜漬けで勉強することを「集中学習」といいます。

 

 子供B3の学習方法と効果をまとめてみます。

分散学習の効果
 ①間隔をあけることにより脳に負荷→限界的練習にもなる
 ②想起練習を繰り返す→テスト効果が高まり記憶の定着

スモールステップによる効果
 ①覚える範囲を狭く限定→短期間で繰り返しが可能
 ②目標を近くに見える化」→学習意欲向上と、小さな成功体験の積み重ね

 

分散学習の効率性

 先ほど、勉強にかけられる時間には制限がある、という話をしました。分散学習は何度も復習をするので、時間がかかり非効率に思われることがあります。

 手間がかかるのです。

 したがって、いかに効率的に復習をするかも考える必要があります。

 

 分散学習における想起において、『効率性』を最重要視する としたら、

 覚えたことを『忘れる前に』思い出すのではなく、
 覚えたことを『ちょうど忘れた頃に』思い出す

 ことになります。

 

 この「忘れた頃に思い出す」「忘れそうな時に思い出す」ことが、想起学習の最も効率的な方法で、テスト効果を最大限に高める ことになります。

 

 しかし、「ちょうど忘れた頃」は、個人差がありますし、忘れる「前」に復習してもテスト効果は発揮されます し、復習してみたら全部覚えている場合もあります。

 

 では、一般的な「ちょうど忘れた頃」を考えてみます。

 

エビングハウス忘却曲線

 「エビングハウス忘却曲線」とは、ドイツの心理学者であるヘルマン・エビングハウスが提唱した、特に中期記憶(長期記憶)に対する「時間の経過と記憶の関係」 を曲線に表したものです。

 忘却曲線の中でも有名なものなので、ご存じの方もいらっしゃるかと思います。

 この曲線から、1日後には(100%-34%)=66%忘れる 、と解釈されます。

※1日後は「74%」忘れる、という情報もありますが、私が調べた限り、66%が正しいようです。

 

 しかし、この曲線の縦軸の「節約率」という言葉を見るとわかりますが、実は、66%は忘却率(忘れる割合)」ではありません

 

 したがって、エビングハウスの研究は、厳密にいうと、

「1日後に66%忘れる」ということを示しているわけではないのです

 

 

 この曲線における縦軸「節約率」の説明をします。

 初めて覚えたときに10分かかったとします。
 (10分で100%覚えた。)
  ↓
 曲線によると、
 1日後「節約率が34%」 となっています。
  ↓
 つまり、
 1日後に覚え直してみたら、
 初めて覚えられた時間(10分)よりも、
 34%の時間を節約して覚えられた」
 ということです。
  ↓
 したがって、
 10分-(10分×0.34)
 =6.6分
 =6分36秒 で覚えられたよ
 (3分24秒 節約できたよ

 ということです。

 

 このように、エビングハウスの実験は、

「忘れた割合(忘却率)」ではなく、
   覚え直すのに節約された時間の割合(節約率)」

 示しているのです。

 

 つまり、1日後には66%忘れた、のではなく、初めて覚えたときにかかった時間の66%の時間で覚えられたよ、

 という研究結果なのです。

 

 そして、この研究は、

1885年のもので、140年ぐらい前
・実験対象がエビングハウスさんのみ
・論文中で、この「曲線」はでてこない
・「この結果が他の人にも当てはまるかは不明」と、エビングハウスさん本人が認めている

 という点も知られています。

エビングハウスさんは、『「忘却量」は測れないので、「時間の節約率」から割り出した 』と説明しています。)

 

 

 エビングハウス忘却曲線は、現在でも多く引用されるほど、時間の経過と記憶の関係をわかりやすく表したものには違いありません。

 したがって、一般的な「ちょうど忘れた頃」、すなわち、「どのタイミングで復習したらいいのか」を考える場合は、他の忘却曲線も考慮します

 

カナダのウォータールー大学による忘却曲線「Curve of Forgetting」

引用:https://uwaterloo.ca/campus-wellness/curve-forgetting

 

 この研究結果(2013年)は、「エビングハウス忘却曲線」と類似性があり、併用して用いられる ことが多い忘却曲線です。

 

 この忘却曲線によると、

 Day1:初日に100%記憶したとします。
  ↓
 Day21日後に、忘れた記憶を取り戻し、ほぼ100%の状態にするには、10分だけ復習すればよい。
  ↓
 Day7:1日後に10分復習したとして、1週間後にほぼ100%の状態に戻すには、5分だけ復習すればよい。
  ↓
 Day30:1日後に10分、1週間後に5分復習したとして、1か月後にほぼ100%の状態に戻すには、2~4分だけ復習すればよい。

 ということになります。

 

 復習にかける時間が減っている にもかかわらず、覚えていられる期間が増えていきます 。これが適切なタイミングでの分散学習の効果なのです。

 


 ただし、それぞれの復習時間(10分、5分、2~4分)は、100%記憶した事柄の量や難易度により変わります。


 したがって、復習時間は考慮せず、

効率的に思い出すための復習の最適なタイミングは、
 1日後 → 1週間後 → 1か月後

 

となります。


 以上のように、復習の「効率性」を重視した研究結果をみてきましたが、実際は、覚える内容の難易度や量、記憶力の個人差、など、記憶の忘却には様々な要因がからんできます。

 当然のことですが、1日後ではなく、10分後とか3時間後といった間隔でもいいので、復習して想起学習を繰り返すことが重要なのです

 復習するには手間と時間がかかるので、できるだけ「効率的に」想起学習すると、「1日後 → 1週間後 → 1か月後」という実験結果もあるよ、というご紹介です。

 

 いずれにせよ、分散学習による想起のポイントは、どのタイミングで復習したとしても、「100%」の記憶状態に戻す、ということです。ただ復習するだけでなく「覚えきる ことが大切なのです。

 

補足:エビングハウスフセン

 復習のタイミングを知らせる大変便利な付箋です。

 付箋には、学習した日の「翌日」「1週間後」「4週間後」 の三つの日付が、上から順に記されていて、復習した日にその日付を切り取れば、次に復習する日が一目で分かる、という優れものです。エビングハウス忘却曲線をもとに作成されています。

引用:読売新聞

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その7のさいごに

 次回は、分散学習+アルファです。

 さいごまで読んでいただき、ありがとうございました。