ふすまのスキマ

アクティブなとき、そうでないとき、ココロの心太(ところてん)

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【教育】子供の学習を「習慣化」させるために その4【初動に関する他の理論・思想】

 

 前回までは、子どもの学習を習慣化するにあたって、最も困難な初動に関して「スモールステップと脳の働き(作業興奮)」という観点からお話してきました。

 以下、少し前回の復習をします。

 

 まず「行動を起こす」ことにより、脳内でドーパミンが分泌され、モチベーションが高まり、作業興奮が生じ、行動を持続させる力になります。例として、
「部屋の片づけを始めると、気づいたら部屋の隅々まで掃除していた」
という経験を挙げました。
 勉強も同様で、

「やる気をだしてから、勉強する」のではなく「勉強しだすと、やる気がでる」
ということがあります。行動がやる気を引き出すことを認識し、「やることを最優先」にすることが重要です。重い腰を上げるためにも「鼻をつまむ」などのアンカリングを利用すると効果的です。
 また、「スモールステップ」のような「簡単なことから始める」という方法で習慣化を図り、脳に「誤認」を起こさせる(脳をだます)と習慣化が促されます。

 

 (ここまでが、前回の復習になります。)

 

作業興奮っていわれても、ドーパミンってみたことないし、よくわかんない」

 はい、そのとおりです。作業興奮が必ずしもうまく作用するわけではないですし、スモールステップで、脳を誤認させても、習慣化が定着するとは限りません。
 ですが、作業興奮と類似した考え方や理論は他にもあります。以下にご紹介し、「こういう考え方もあるんだ」と認識していただくことで、習慣化の一助になれば幸いです。今回は理論や思想が多く、学習の習慣化に関連した具体例が少ないのですが、何卒ご海容を。

 

 ズーニンの法則

 物事の初動の最初の4分間を乗り越えることで、やる気が引き起こされ、その後の行動が継続しやすくなる、という法則です。

「初動4分の法則」とも呼ばれ、「4分間」という具体的な数値があるために、より習慣化できそうな気がしてきます。まずは4分程度の「簡単な作業」をこなし勢いをつけるのがこの法則の効果を最大限に発揮させるポイントである、という点でも、ズーニンの法則と作業興奮は類似しています。
「ずーにんっていうエライひとが、4分やったらどーぱみんでアゲアゲになるって言ってたから、やってみよー」
などを子どもに言ってみてください。(相手の立場や考え方を考慮した、工夫を凝らした伝える技術って大切です。伝わり方が変わってきます。)
 心理学者レナード・ズーニンが書いた『The First Four Minutes』(出会い、最初の4分間)という本が元となっている法則で、「人間関係」についても述べられています。出会った「最初の4分間」が、相手との関係を継続するか否かの「平均的な時間」であるようです。仕事とか友人関係とか恋愛でも最初の4分を意識してみると、その後の人間関係も変わってくるのかもしれません。「4分」は極端かもしれませんか、何事も初動を意識することがポイントっていう話です。私のような対人関係が得意でない人間も、最初は相手に興味を持ってみることが大切らしいです。勢いがつけば、ドーパミンが出て関係も継続するんですかね。

 

 一貫性の原理

・見始めたドラマが「面白くなさそう」と思っても、ついつい最後まで見続けてしまう
・ランチはいつも決まった店に行く
・ローテーションで着る服を決めている
・読み始めた本は最後まで読まないといけないような義務感がある
・火曜日の晩ごはんは和食と決めている
・通勤時の電車は前から2両目にしている

 一貫性の原理とは、「一度決めた行動や態度はその後も一貫性をもたせ変えたくないと考える心理的傾向」のことです。いったん始めた行動を継続するという点で、作業興奮と類似点があります。
 一度決めたルーティーン行動に従うことって、脳は楽をすることができます。「こういう時はこういう行動をとる」と無意識に自分の行動をパターン化することによって、選択を迫られる機会が減ります。人は一日に何度も決断や判断を迫られます。その都度、新しい決断や判断を行うと、脳に負担がかかり、非効率かつ多くのエネルギーを消費します。脳は過去と類似した現在の状況に対し、過去に行った判断や決断を当てはめることでエネルギー消費や負担を減らします。このような脳の性質のため、ルーティーン化した習慣行動は変更したくなくなるという「一貫性の原理」が働きます。こうした脳(人間)の性質は、商品やサービスの購入行動、マーケティングにも利用されています。

 

 美徳ラベリング

「人はよいラベルを張られると、そのラベルに見合うようになろうとする」

 
 アメリカの哲学者が提唱した「Virtue Labeling (美徳ラベリング) 」という考え方です。例えば「あなたは正直ですね」と言われた人は、「正直であろうとする」ので、実際に「正直な人になる」というものです。もし実際は「正直でない」のに、「あなたは正直だね」と言われたら、「実際の性格」と「理想とする性格」の間のギャップを埋めようと無意識に行動するようです。
 また、「ラベル付けされた人は、ラベル付けした相手に対し、そのラベルに沿った行動をとろうとし、また、相手の人はそのラベルに沿った行動を期待する」ので、「肯定的なラベリングをされた人は、そのラベルを剥がさないようにする」のです。再び褒められたい、そう思われたい、とか、ちょっとカッコつけたいんですかね。
 子どもを褒める際に、少し気に留めておきたいところです。

 

 「理入」と「行入」

理入(りにゅう)」とは、理屈や理論から入る(とりかかる)こと。
行入(ぎょうにゅう)」は、行動や実践から入る(とりかかる)こと。

 達磨大師(中国禅宗の開祖)が唱えた「二入四行論(ににゅうしぎょうろん)」の中で、『修行には「二入」(2パターンのとりかかり方)として、「理入」と「行入」の二つがある』と述べています。どちらから入るのがいいかは唱えてはいません。しかし、いくら理論や知識があっても、行動・実践に結びつかない理論・知識は、あまり意味がないような気がします。「理屈」を頭で理解していても、行動に移されるとは限らないので、まずは「行動」してみる、のがいいのではないでしょうか。「行入」→「理入」→「行入」…と繰り返していくのがいいかと思います。ちなみに「四行」は、①苦しみは報いとして甘んじて受け入れなさい:報冤行(ほうおんぎょう)。②苦楽は縁なので、心動かされることなくただ道を進みなさい:随縁行(ずいえんぎょう)。③苦しみのもととなる求める心を無くしなさい:無所求行(むしょぐぎょう)。④仏法に従い六波羅蜜を行いなさい:称法行(しょうぼうぎょう) ※六波羅蜜:六種の修行。布施(施す)、持戒(戒律を守る)、忍辱(耐え忍ぶ)、精進(ひたすら努力)、禅定(精神統一)、知慧(真理、悟りの完成)、だそうです。
  家のどこかに「ダルマさん」を置いて、目に入ったら「理入」と「行入」を思い出してみてください。

 

 ウィリアム・ジェームズの言葉

 幸せだから笑うのではない
 笑うから幸せなのだ

 “We don't laugh because we're happy
  — we're happy because we laugh.”

 楽しいから歌うのではない
 歌うから楽しいのだ

 “I don’t sing because I’m happy
  — I’m happy because I sing.”

 2つともアメリカの哲学者・心理学者であり、アメリカで初めて心理学講座を開設した教育者、ウィリアム・ジェームズの言葉。哲学といえば「考えること」を優先しがちだが、『「思考」で得られることには限界がある。そのため、考えることに集中するよりも、まず行動し、そこから得られる結果をもとに意思決定するほうがよい』というプラグマティズムとして知られる哲学の新潮流を確立しました。

 ウィリアム・ジェームズは他に以下の言葉も残しています。

 心が変われば行動が変わる
 行動が変われば習慣が変わる
 習慣が変われば人格が変わる
 人格が変われば運命が変わる

 “The behavior will change if the mind changes.
  Habits change if action changes.
  Personality will change if the custom changes.
  The destiny will change if the personality changes.”

 これと似た言葉に以下もあります。映画『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』で、イギリス初の女性首相サッチャーが、父親より教えられた言葉として紹介されています。また、この言葉は、マザーテレサの好きな言葉としても知られています。

 考えは言葉となり
 言葉は行動となり
 行動は習慣となり
 習慣は人格となり
 人格は運命となる

 Watch your thoughts, for they become words.
 Watch your words, for they become actions.
 Watch your actions, for they become habits.
 Watch your habits, for they become character.
 Watch your character, for it becomes your destiny.

 「自分の考えを言葉として表し、行動することによって習慣となり、その習慣が人格となって自分の人生に影影響を与えていく」というような考え方。ついでですが、「thoughts」「words」「actions」「habits」「character」の頭文字を並び替えると、各文の先頭にある「watch」となるようです。偶然なのでしょうか。

 

 さいごに

 これまで、子どもの学習の習慣化について、
  その1 「if ― thenルール」
  その2 「アンカリング」
  その3 「スモールステップと作業効果」
  その4 「初動に関する他の理論・思想」
とお話してきました。習慣化の「初動」のお話で4回になりました。今後は継続のための学習方法などのお話になります。「学習の習慣化」というタイトルではないかもしれませんが、今後も子どもの学習や、教育全般、教育に関する心理学などをお伝えしたいと思います。
 おつきあいいただき、ありがとうございました。